ゴルフ場の運命を決めるスループレーの浸透

ゴルフ場の運命を決めるスループレーの浸透

 アメリカのゴルフ場に行って、真っ先に気づくのは、クラブハウスの小ささではないだろうか? 日本のクラブハウスと比べると、まさに雲泥の差である。確かに、有名なリゾートコースには大きなクラブハウスがあるケースもある。例えば、日本のゴルファーにも馴染みのあるPGAウエスト(パームスプリング)やワイレアGC(マウイ島)などがその代表だ。但し、それらが大きくなっている理由は、お土産を充実させたプロショップが幅を利かせていたり、ゴルファー以外の一般客を対象にした立派なレストランがあったり、巨大なカート庫を抱えているからに他ならない。では、どうして小さなクラブハウスでも運営できるのだろうか? その理由こそが、まさにスループレーにあるというわけである。

 ゴルフ本来の姿と言える、アウトコースからスタートする1ウェイのスループレーは、アウトコースとインコースからスタートするゴルフ場に比べ、一度に来場するゴルファーは単純計算では半分になる。そのため、ある一時に数多くのスタッフを集中して配置する必要がない。日本のゴルフ場の人件費が高くなる傾向にあるのは、来場者が一番多い季節、曜日、時間を想定してスタッフを採用し、暇な時に余剰人員が生まれることにあるのは周知の通りだ。細かなところで言うと、トイレの数も少なくて済むし、トイレの数が少なければ清掃要員だって少なくて良い。

 スループレーが合理化を生む理由はまだまだある。例えばレストランだ。途中で食事を挟まなければ、多くのゴルファーはゴルフ場で食べずに帰るだろう。特に、7時台や8時台、13時台やそれ以降のスタートともなれば尚更だ。では、ゴルフ場で食事をしないゴルファーが増えるとどうなるか? レストラン部門は採算が採りづらくなるので、本格的な調理人は雇えなくなり、結果としてカジュアルスタイルのレストランに成らざるを得ないだろう。

 日本特有のお風呂も、スループレーが浸透すれば入らずに帰るゴルファーが増え、存在そのものが見直されるに違いない。お風呂が無くなり、例えばシャワーだけになれば、それだけで水道光熱費は下がり、更にトイレと同じように清掃要員も少なくなるので、施設管理に関する人件費は大幅に削減できるはずである。

 スループレーによってレストランがカジュアルになり、更にはお風呂の必要が無くなったらどうなるか? 実はその最大の恩恵が、クラブハウスを小さくできるところにあるというわけだが、クラブハウスが小さければそれだけで配置するスタッフの数は少なくて済み、当然ながら水道光熱費が削減でき、更には固定資産税が軽減できることも見逃せない。つまり、究極のゴルフ場の合理化は、スループレーによって実現すると言っても過言ではないのである。

 もっとも、スループレーに関しては、未だ未だ賛否両論があるのも事実。特に、時間的に十分な余裕があり、ランチ休憩が体力的にも優しく感じる高齢者が中心となっている、現在のゴルフ事情では尚更だ。しかし、スループレーの採用により、今よりもっとプレー料金が安くなるのであれば、必ずニーズが高まることは間違いない。何より、来場者の平均が30組程度となれば、敢えて声高にスループレーを謳わなくても、そのままプレーを続けたいゴルファーはスタートできてしまうだろう。そして仮に、スルーでラウンドする組が毎日半分近くになったらどうなるか? そのままではレストラン部門の収益が確実に悪化していくので、今度はゴルフ場サイドが積極的にスルーを推奨するに違いない。

 スループレーの浸透は、プレー料金にも影響を与える。スタート枠の設定が長くなるスループレーは、1日の中でも時間によって予約が偏るので、ニーズに合わせた料金格差が必要になる。たとえば、早朝や午後スタートを安くするといった具合だ。その一方で、今後もゴルファー人口が減り、週末の稼働率が下がることによって、平日と週末の価格差が限りなく縮まることが予測される。しかしこのような料金システムも、実は既にアメリカではスタンダードとなっているのである。

 今回紹介したアリゾナのグレイホークGCを例に取ると、プレーフィは季節によって50ドル?245ドルもの価格差がある反面、245ドルの日の中でもスタート時間によっては150ドル?245ドルもの価格差がある。一方、稼働率が高い冬期こそ平日215ドル、週末245ドルと曜日による価格差が若干あるものの、日中の気温が40度にもなり、稼働率が一気に下がる夏期は平日も週末も一律に50ドル。しかも、1日の中での料金差も無くなるといった具合だ。しかし、これこそが合理化運営の真骨頂。つまり、頑張ってもさほど稼働率が上がらない時期には、料金を変動させてまで無理に集客しようとはせず、小さなクラブハウスの特性を生かして少ない経費、つまり「小さな運営」で凌ぎ、収益性の悪化を最小限に食い止めるというわけである。

環境の変化に合わせて生き残る「ゴルフ場進化論」

 プレー料金を安くすることで稼働率を上げ、何とか売り上げを保ってきた日本のゴルフ場。しかし、ゴルフ人口の更なる減少から、もはや稼働率は上がるどころか、減少の一途を辿ることは明白だ。それだけに、無理に稼働率を高めようとはせず、「小さな運営」で収益を確実に生み出すという、多くのアメリカのゴルフ場で実践されているこの運営手法こそ、これからの日本のゴルフ場運営のお手本になるに違いない。

 かねてから筆者は、マーケットやトレンドなどに合わせながら運営スタイルを変化させ、ゴルファーニーズにマッチさせる術を「ゴルフ場進化論」と呼んでいる。これは、「種の起源」を記したダーウィンが、その有名な進化論の中で、「生き残っていくことのできる生物は、強い生物ではなく、環境に適応できる生物である」と述べていることに由来している。

 減少が進む入場者に合わせて、どのような運営にすべきなのか? ゴルフ場がこの先も生き残っていくためには、今以上の省力化が求められることだけは間違いない。



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