キーワードは「頑張らない営業」

「スマートゴルフ」が、これからのゴルフ場を変える!part1

入場者の減少、そして客単価の下落が止まらないゴルフ場業界。この厳しい現況は、一体いつまで続くのか? 20年前、既に今日のゴルフ場業界を予測し警鐘を鳴らしていた筆者が、10年先のゴルフ場業界を見据え、あらたなオペレーションのスタイルを提唱する。

客単価の下落を加速させるアンバランスな需要と供給

 2011年度の都道府県別の入場者数が、続々と発表されている。大震災の影響があったものの、「思ったほど減少率が少なかった」と胸をなで下ろしているゴルフ場も多いのではないだろうか? 確かに、震災後のキャンセルは尋常な数では無かったはずだ。そして、そのマイナス分を取り戻すために打ち出した、数々の営業施策。その甲斐あって、5月以降の予約数は復調したように見えるのだが、実はそこに大きな落とし穴があった。
 1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以来、ゴルフ場市場は縮小の一途を辿っている。例えば、ピーク時の1992年には約2兆円の市場規模だったものが、2010年には約9600億円と、半分以下にまで縮小した。
 次に、この数字の算出根拠となっているゴルフ場の総入場者数(全ゴルフ場の入場者数)、そして客単価の推移を見てみよう。ゴルフ場の総入場者数は1992年の約1億人に対し、2010年は約8千8百万人と約90%しか減少していない。一方、客単価はどうかというと、1992年は2万円超あったものが、2010年は約1万1千円とおよそ半分になっている。つまり、ゴルフ業界はゴルフ場がプレーフィを下げたことにより(もちろん、下げたくて下げたわけではないのだが)、かろうじて入場者数だけは維持しているというのが実状というわけである。
 では、どうしてこのような事態になったのだろうか? そもそも、価格が下がり続けると言うことは、需要と供給のバランスが大きく崩れたからに他ならない。簡単に言うと、ゴルファーのプレーニーズ(予約数)よりも、ゴルフ場の総数(スタート枠数)が多いと言うことである。
 問題はここからだ。ここまで需要と供給のバランスが崩れると市場原理が働き、供給量が調整されるのが一般的なのだが(まさに「神の見えざる手」である)、不思議なことにゴルフ場業界はそうならない。つまり、ゴルフ場の数がいつまで経っても減らないのである。では、この先もゴルフ場の数は減らないのだろうか? 結論から言うと、この先も減ることはないと考えるべきである。
 預託金制度が崩壊して、既に多くのゴルフ場が経営破綻した。本来であれば、まずはここでゴルフ場の数は減るのが道理であったのだろうが、民事再生法という法律の下に、ゴルフ場は閉鎖を免れた。しかし、ゴルフ場が抱える問題は、もはや預託金ではない。日々の運営が赤字に転じ、資金繰りが急激に悪化することである。実際、既に支払いを遅延することで、かろうじて営業を続けているゴルフ場、俗に言う「ゾンビコース」も少なくはない。
 ゴルフ場には利用税や消費税と言った預かり税をはじめ、固定資産税や法人税と言った税金が課せられる。更には社会保険料といった法定福利費など、本来は支払って当然と言える費用があるのだが、それらを滞納することにより、ゴルフ場はまとまった現金を手にすることができ、運転資金に回すことができる。では、街中の飲食店が税金の滞納を続けたらどうなるか? 間違いなく、営業停止になるだろう。ところが、ゴルフ場業界で、営業停止命令を受けたといった話しは、まず聞かない。何故なら、ただでさえ経営が悪化しているゴルフ場の営業を停止すると、二度と回収できなくなるばかりか、そこで働いている従業員の雇用も確保されなくなる。都心部であればまだしも、地方で50名もの雇用を創出するのは至難の業だ。せっかく民事再生法で守った会員のプレー権だって喪失するだろう。更には、閉鎖して荒れ放題になったゴルフ場は、環境問題にもなりかねない。そこまでのリスクを冒して、果たして役所や自治体がゴルフ場に営業停止命令が出せるのかといえば、かなり疑問だ。つまり、ゴルフ場を閉鎖するというのは一見すると簡単なようで、実は非常にハードルが高いのである。もちろん、中には経営が完全に行き詰まり閉鎖するゴルフ場もあるだろう。しかし、そもそもそうしたゴルフ場は遠隔地にあって入場者数も少ないため、市場に与えるインパクトは限りなく小さい。
 一方で、ゴルフ場業界は市場に与えるインパクトが大きな問題も抱えている。それがゴルフ人口の減少、俗にいう「2015年問題」である。ゴルフ人口(1年に1回以上ラウンドしたことのあるゴルファー)のデータを見ると、最盛期の1992年には約1270万人だった数字が、2010年には約810万人と、最盛期の約6割に激減した。高齢者が多い日本の人口分布に合わせるように、ゴルファーの人口分布を逆三角形の歪なラミッドを形成している。そのため、若年層の参加率を高めることが急務であることは必須なのだが、残念ながらそれで入場者数が増えるというような簡単な話ではない。
 ゴルフ人口が減ったにも関わらず、ゴルフ場の総入場者数がそれほど減っていないのは、一人あたりのプレー回数が増えたからに他ならない。統計的には一人あたりの1年間のプレー回数は10回程度であるが、実際は20回以上するヘビーユーザーと、お付き合いで年に数回だけコンペに参加するといったライトユーザの二極分化が進行しているのだ。では、どのようなゴルファー層がプレー回数を増やしたかというと、それは仕事をいた60才以上の高齢者達である。つまり、逆三角形をした日本のゴルフ人口は、年を追う毎に確実に減少するだけではなく、その減少する人数にも増して、プレー回数はそれ以上に減少する可能性を秘めているのだ。それがより顕著になって現れるのが、2015年以降というわけである。
 ちなみに、現在のゴルフ場来場者の中心を成す60歳以上の高齢者ゴルファーの特徴は、年金など収入には限りがあるものの、時間的な余裕は十分にある。そのため、少しでも安いゴルフ場を探して何度もラウンドするのだが、料金が高くて混んでいる週末は敬遠するといった具合だ。土日の稼働率が下がり出した要因は、この高齢者層が来場者の中核であり、他のゴルファー層が減少している証拠とも言えるだろう。
 需要と供給のバランスが完全に崩れ、今後は益々供給過多になるゴルフ場業界。こうした現状の下で徒に稼働率を高めようとすれば、プレー料金は下落の一途を辿るだけだ。プレー料金の比較が容易にできる集客サイトの影響も少なくない。そもそも稼働率を高めると言っても、ゴルフ場の場合はスタート枠数に限りがある。つまり、皮肉なことに頑張って集客しようとすればするほど客単価が下がり、その一方で結果的には売り上げ自体が減少するという、まさに「踏んだり蹴ったり」の状況に陥っているというわけだ。震災直後のキャンセルを埋めるための料金施策などは、まさにこの状況を加速させる結果になっただけなのだ。
 では、これからのゴルフ場の運営は一体どうしたら良いのだろうか? そのキーワードこそが、「頑張らない営業」なのである。但し、頑張らないといっても、何もしなくて良いわけではない。水鳥と同じように、お客様が見ていない水面下で、一生懸命水かきを動かさなくてはならないのである。

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