時代が変わればゴルフスタイルも変わる!

〜菊地流「カジュアルゴルフの新提案」〜part1

レディス向けのゴルフウェア業界が賑やかだ。既存ゴルフメーカーの新規ブランド展開はもちろんのこと、新たに参入する他業種メーカーも後を絶たない。このような背景にあるのが、「ゴルフのカジュアル化」だ。ゴルフ場の敷居が下がったおかげで、誰もが気軽にゴルフを楽しめる環境になったことは誰もが認める事実だろう。しかし、本当の意味での「ゴルフのカジュアル化」は、ただ単にプレー料金を下げることだけではない。そこで今回は、「カジュアルゴルフの新提案」と題して、数多くのニュートレンドコースを手掛けてきた気鋭のゴルフ場コンサルタント菊地英樹氏が、これからのカジュアルゴルフの進むべき道を解説する。

ゴルフ場のカジュアル化が、ゴルフ業界全体を支える

 先日、ある女性ゴルフ雑誌が主催するオープンコンペ会場を訪ねた。当日は朝から雨模様だったにも関わらず、20代から30代の女性ゴルファーを中心に総勢120名も集まり、ゴルフ場は終始華やかな雰囲気に包まれていた。しかし、それはゴルフ業界全体に於けるゴルフ場に課せられた、厳しい役割を象徴している光景でもあった。
 ゴルフ場の総入場者数は‘92年の1億232万人をピークに減少傾向が続いていたのだが、ここ数年は僅かではあるが増加傾向にあり、’07年には8,902万人となっている。ゴルフ場にとっては1割以上も入場者が減少しているわけで、依然として厳しい現状ではあるが、見方を変えれば「よくもこの程度の減少で止まっている」といえる数字でもある。では、どうしてこのような減少数字で止まっていられるのか? その背景にあるのが、ゴルフ場のカジュアル化であることは、疑いようのない事実だ。
 バブル経済が崩壊し、社用ゴルフが減少した結果、本来であればゴルファー、そしてゴルフ場の利用者数は劇的に減少して当然であった。しかし、ゴルフ場がおこなったプレー料金の値下げやキャディ付きラウンドの廃止などといった努力により、ゴルフ場の敷居は一気に下がり、プレー回数自体の減少は緩やかなカーブを描く結果となった。では、他のゴルフ業界は一体どのような努力をおこなってきたのだろうか? ゴルフクラブやボール、ゴルフウェアは当時よりも安くなっているのか? プロのトーナメントの賞金は当時より低くなっているのか? どちらも「NO」である。もちろん、景気の悪化によってゴルフ用品の総売上は下がり、また、トーナメント自体の数も減ったことは事実である。しかし、ゴルフ場のプレー料金の下がり具合から比べれば、その結果は「当然」といっても過言ではない。何故なら、ゴルフ場のプレー料金は半額以下になっているが、新製品のドライバーやゴルフボールが半額になったという話は未だかつて聞かないし、トーナメントの賞金も然りだ。もちろん、ゴルフ場もプレー料金が下がったために総売上も減ってはいるが、そうした努力によって、かろうじてゴルファー、そしてプレー回数を維持しているのである。
 以前のようにプレー料金が高かったら? 以前のようにキャディ付きのラウンドが当然だったら? 以前のように乗用カーが無くて歩きのラウンドだけだったら? 少なくとも、冒頭で紹介したようなレディスコンペを開催することは無かったであろう。実際、当日会場となったゴルフ場は都心近郊のトーナメントコースでありながら破格のプレー料金だったと聞く。このように、ゴルフ場のカジュアル化はゴルフ場にとってはもちろんのこと、ゴルフ業界全体の将来をも担っている重要なキーワードなのである。

カジュアルゴルフの三種の神器、乗用カー・セルフプレー・スループレー

 バブルの余韻が色濃く残る今から15年以上も前に、あるゴルフ雑誌の連載で、「これからのゴルフ場が生き残るためには、“乗用カー”“セルフプレー”そして“スループレー”こそが必須アイテムである」と書いて、ゴルフ場関係者から大いに冷笑された記憶がある(笑)。あれから時を経て、ゴルフ場の実態はどうなっているのだろうか?
 当時、「乗用カーでラウンドするゴルフ場は三流コース」といった風潮が根強くあった。実際、メンバーコースで乗用カーを導入しようとすれば一騒動で、中には「導入しても絶対に自分は乗らない」という強硬な反対意見を掲げるメンバーも珍しくはなかった。「乗用カーは、あって当たり前」と思っているゴルファーやゴルフ場スタッフの皆さん方は驚くかも知れないが、それが実態だったのだ。ところがである。今や乗用カーは“当然”のアイテムで、早くも2代目の乗用カーを使っているゴルフ場も少なくない。導入前は「絶対に乗らない」といっていたメンバーたちも、その快適さを体感し、今では率先して乗っているのが現状である。
 また、当時は導入することが先決で、乗用カー自体にそれほどこだわりはなかったが、今ではゴルファーの目も肥えて、しっかりトレンドもあるので注意したい。静粛性とエコロジー問題への関心からバッテリーカーが主流になっていることは周知の通り。ボディの色もカラフルになり、フロントウィンドウを開放できるタイプが人気だ。つまり、乗用カーは「あれば良い」という時代はとっくに終わり、「あって当たり前」の時代を経て、今やゴルフ場の経営姿勢やセンスが厳しく問われる「こだわりアイテム」になっているというわけである。
 さらに、乗用カーに関連してはゴルフ場の“未来”に欠かせないキラーコンテンツ(切り札)として、「フェアウェイへの乗り入れ」を忘れてはいけない。
 乗用カーをフェアウェイへ乗り入れれば、アップ&ダウンの多いコースでも疲れることなく、また、プレーの進行が早くなり、ゴルファーはより快適にプレーに専念できるようになる。しかし、その一方で必ずといって問題になるのが、芝生へのダメージである。
 北海道のゴルフ場の多くは、乗用カーをフェアウェイに乗り入れている。その理由は単純だ。ゴルフ場に乗用カー用のカート道路が無いからである。北海道はその雄大なイメージからか、昔から乗用カーが普及しているように思われているが、実はそうではない。来場者が少ない割にコースが多い北海道のゴルフ場経営は非常に厳しく、残念ながら乗用カーを導入する費用すら捻出できないゴルフ場も少なくないため、他のエリアよりも乗用カーの普及が遅れたという事情がある。当然ながらカート道路の整備など二の次で、その結果、物理的にも乗用カーはフェアウェイに乗り入れざるを得ないのである。
 そんな北海道のコースを見ていて感じるのは、フェアウェイへの乗り入れ自体がコースの管理状況を左右するのではなく、その対策方法によってコースの管理状況に大きな差が出ると言うことだ。つまり、乗用カーをフェアウェイに乗り入れていても、乗り入れる場所をローピングによって日々こまめに分散しているコースは荒れないが、その一方で、好き勝手に乗用カーを走らせているコースは当然ながら荒れているのである。
 千葉県のあるゴルフ場では井上誠一氏設計のコースであるがフェアウェイへの乗り入れを開始し、飛躍的に入場者数を伸ばした。新型の乗用カーには芝生への接地圧力を極力軽減しているモデルもある。これからのゴルフ場は「乗用カーをフェアウェイに乗り入れるべきか?」を無駄に悩むのではなく、「乗り入れる前提で、どのような工夫ができるのか?」を真剣に議論すべきなのだ。グリーンキーパーによっては頑なに乗用カーのフェアウェイ乗り入れを拒むが、ゴルフ場によってはもはや選択肢はない。グリーンキーパーが「入れられない」というのであれば、「入れられる」というグリーンキーパーに替わってもらうのが最善の策かも知れない。

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